【スピーカー】
北方靖人(きたがた・やすと)
サーチャー兼ノーススター代表取締役社長。りそな銀行で7年間法人営業を経験後、年商数億円規模の古着屋WEGOに転職。副社長として、事業計画・営業・商品・人事・物流・会計など全領域を担当し、同社を年商数億円から約400億円規模、200店舗以上を展開するSPAアパレル企業へと成長させました。オーナーチェンジを機に2017年に退社し、2018年にバッグブランドを展開するLESPORTSAC JAPANの代表取締役社長に就任。高齢化していた顧客層を刷新し、EC構成比を引き上げ、企業を成長させました。
【インタビューアー】 荻原猛(おぎわら・たけし)
株式会社ロケットスター代表取締役社長 CEO。中央大学大学院戦略経営研究科修了。経営修士マーケティング専攻。 大学卒業後、起業するも失敗。しかし起業中にインターネットの魅力に気付き、2000年に株式会社オプトに入社。2006年に広告部門の執行役員に就任。2009年にソウルドアウト株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。2017年7月に東証マザーズ上場、2019年3月に東証一部上場。2022年3月に博報堂DYホールディングスによるTOBにて100%子会社化。博報堂グループにて1年間のPMIを経てソウルドアウト取締役を退任。2023年4月に株式会社ロケットスターを設立し、代表取締役社長 CEOに就任。50歳で3度目の起業となる。
りそな銀行での法人営業から、WEGO副社長、LESPORTSAC社長としてアパレル再建を実現し、現在はサーチファンドを通じて中小企業の未来に向き合う北方氏。
これまで、銀行で培った数字への洞察力と仮説を立てて行動で検証する姿勢を強みに異なる業界でも成果を出し続けてきました。
肩書きではなく「自分の意思で選ぶキャリア」を貫くその歩みには、変化を恐れず挑戦を続ける経営者としての理念と情熱が表れています。
今回は、北方氏にこれまでの挑戦の軌跡と、ロケットスターとともにサーチャーとして描く事業承継への想いをインタビューしました。
■銀行員からアパレル経営者へ。銀行で培った数字感覚を強みに、未知の業界で事業牽引。ブランドを大幅成長させた経営手腕
荻原:まずは自己紹介をお願いします。
北方:大学卒業後、りそな銀行に入りました。法人営業として船場支店で新規営業を担当しました。その頃、取引先の一つに古着屋の「WEGO」があり、オーナーに「うちに来ませんか」と声をかけて頂きました。悩みましたが、最終的に『自分で結果を出す』と決めて転職しました。
荻原:WEGOに入社してからは、どのようなキャリアを歩まれたのでしょうか。
北方:最初は財務部長として入りました。数字は得意でしたが、服のことは何もわからない。だからデータを集め、分析し、管理面から事業構造を理解していきました。
そして入社5年で副社長になりました。そこから財務・MD・物流・経営企画など、経営については一通り経験し理解を深めていきました。入社時は年商数億円の古着屋でしたが、辞める頃には年商400億円。そしてWEGOはメディア化し、フォロワーは総数200万人超となりました。
荻原:そんなWEGOから転職されましたが、どのような背景があったのでしょうか。
北方:WEGOが事業譲渡するタイミングで退社し、LESPORTSACに財務部長として入りました。2か月後に社長から「全体を横断して経営企画を見てほしい」と言われ、全社を統括する立場になりました。
翌年に社長就任。ただコロナで店舗が全て閉まる事態へ。そこでECへ全振りする決断をしました。コロナ禍で「バッグ、服飾小物系はECと相関性が良い」と気づけたのは大きな発見でしたね。
その後、ECが上手く軌道に乗りました。コロナ禍においても事業全体も成長出来たため、伊藤忠への売却が決まりました。私としては、そのフェーズまでやりきったという感じでした。
■与えられた役割ではなく、自ら選ぶ挑戦を。50歳でサーチャーに転身し、再び“未知の挑戦”で経営の現場に臨む理由
荻原:次の勝負として、転職や起業ではなく、なぜサーチャーという道を選んだのでしょうか。
北方:「自分の強みを活かせる領域を、自分で探せる」という自由度ですね。上場子会社の社長ポジションやCFOはどうか、というオファーの話もありましたが、安定よりも未知への挑戦に惹かれました。
サーチャーは「自分はこういう会社を伸ばしたい」と提案していくスタイル。「自分はこういうことをやりたい」「こういう得意分野があるから、こういう会社を探したい」と自分から伝え、その上で「じゃあそういう会社をメインで探しましょう」という流れになります。
自分の意思で動けるのが魅力でした。決まった枠の中で「これをやってくださいね」というオファーではなくて、自分で選択できるのがサーチャーの特長です。やってみたいことを形にしていくのを後押ししてくれる、そんなイメージです。
だから、自分の中でチャレンジしたい分野をより明確にして突き進むことができます。私にとっては、サーチャーという道を選ぶのはすごく自然な流れでした。
荻原:今の年齢で挑戦することについては、どう受け止めていますか?
北方:年齢は気にしていません。経験を積み、まだ体力もある。私のメンターが60歳で亡くなったこともあり、「60歳でどうありたいか」を考えるようになりました。今このタイミングで挑戦しなければ後悔すると思いました。
今の私の50歳というのは、まだ勝負できる年齢でもあるし、経験も蓄積されていて、今までの経験を生かせるちょうどよい時期だと思います。結局は、年齢はあまり関係ないと思いますね。
でも、サーチャーを考えている方にアドバイスをするとすれば、早ければ早いだけいいとは思います。その分、経験値がどんどん積み上がるので、遅いよりは早い方がいいのかなと。
荻原:では、サーチャーとして、将来社長になることをどう捉えていますか?
北方:立場より成果です。社長だから偉いのではなく、会社を伸ばし社員の給料を上げてこそ社長。部下ともフラットな関係を心がけています。
私の好きな言葉に「勝ちに偶然の勝ちなし、負けに偶然の負けなし」があります。負けた理由を分析することこそ次につながる。負けないように対策を考えるのが経営だと思っています。
■サーチファンドを通じて中小企業の光をつなぐ。ロケットスターとともに挑む、経営再生と新しい成長のかたち
荻原:サーチファンドは事業承継という社会課題に挑む仕組みでもありますが、その点については、どう思いますか?
北方:私が銀行に入ったのも、中小企業を支援したかったからです。大企業にはない“光る部分”を見つけ、伸ばすことが好きなんです。ロケットスターのファンドは、まさにそれを形にしていると思いました。
成長に悩む企業に少し先を示すだけで、道が開ける。そんな経験を多くしてきました。だから今度は、自分がその“灯をつなぐ側”になりたいです。
荻原:では、M&A知識との向き合い方についてはどうでしょうか。M&AにはPMI、MBO、バリュエーション、銀行との付き合いなど幅広い知識が必要です。どう向き合い、どのように学びながら進めていますか?
北方:数字には、1+1=2になるように絶対性がありますよね。企業成長という点では、1+1=2には、必ずしもならないこともありますが、基本の構造は数字と同じようにわかりやすく理解できるものだと思います。
企業価値や事業の話になると難しいと感じる人もいますが、噛み砕いて考えれば意外と単純です。
自分自身は、銀行員時代やWEGO時代、資本政策・デューデリジェンス・事業買収などを経験してきたので経験上違和感なくM&Aの話を聞けています。
荻原:ダイレクトソーシングやオリジネーションプラン作成で大変だったことや工夫したことは何でしょうか。
北方:案件がなかったらどうしようという不安と、せっかくサーチ制度があっても活用できなければ無駄遣いになってしまうなという悩ましさがあり、サーチ活動のしんどさを理解しました。
しかし、焦らずに自分ができることをひたすらやろうと取り組んでいます。たとえば、知り合いに紹介をお願いしました。紹介してもらったからといって、成功は万に一つですが、少しでも前向きに捉えてくださる方がいるのが励みです。
数字の問題で話が通らなかったり、競り負けたりした案件などもありましたね。それでも、私に対してはポジティブに捉えてくれる方もいました。そういう経験を糧にして、踏みとどまるしかありません。案件やキャラクターへの信頼もありますから、めげずに取り組んでいます。
それから、私はオープンなタイプなので、事業の話になると盛り上がることも多く、トップ面談の場では、違和感なく話せていますね。
事前知識を持っておいて、率直に伝えます。具体的な課題や手段を話すと、「わかってくれている」という空気が生まれます。
荻原:サーチ活動の中で「正直つらかった」と感じた場面はありましたか?それをどう乗り越えているのでしょうか。
北方:つらいことがあっても、それを乗り越えた自分は確実に強くなっていると常に思っています。マイナスの状況をポジティブに捉え、どう乗り越えるかを考えるというのは、社会人になってからずっと大切にしていることです。
荻原:苦しいことを乗り越えるとき、何かが支えになったことはありますか?
北方:ロケットスターCOOの山家さんです。資料を細かく見て、厳しくも温かいアドバイスをくれます。株主目線ではなく『一緒にどう伸ばすか』を考えてくれる心強い存在です。二人三脚で進めている感覚です。
荻原:承継後、どんな経営を実現したいですか?
北方:従業員が誇りを持って働ける会社にしたいです。MDやマーケティングの知見を活かし、インフルエンサーやIPを活用した新しい販促も仕掛けたい。最終的には「この会社を任せて良かった」と思ってもらえる経営を目指します。