【スピーカー】
和泉佳孝(いずみ・よしたか)
1976年生まれ、京都府出身。立命館大学国際関係学部を卒業後、株式会社堀場製作所に新卒入社。その後、2006年にデジタルマーケティング業界へキャリアを転じ、トランスコスモス株式会社やAdTech系スタートアップ企業を経て、2014年に株式会社アイレップへ入社。2015年に営業本部長、2016年には執行役員に就任し、デジタルマーケティング領域において着実に実績を積む。2019年からはグループ会社である株式会社カラックの取締役も務め、2024年の統合に伴う社名変更後は、Hakuhodo DY ONEの執行役員・営業本部長として、主に直販営業の推進を担う。2025年3月同社を退任、6月末退職。
【インタビューアー】
荻原猛(おぎわら・たけし)
株式会社ロケットスター代表取締役社長 CEO。中央大学大学院戦略経営研究科修了。経営修士マーケティング専攻。 大学卒業後、起業するも失敗。しかし起業中にインターネットの魅力に気付き、2000年に株式会社オプトに入社。2006年に広告部門の執行役員に就任。2009年にソウルドアウト株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。2017年7月に東証マザーズ上場、2019年3月に東証一部上場。2022年3月に博報堂DYホールディングスによるTOBにて100%子会社化。博報堂グループにて1年間のPMIを経てソウルドアウト取締役を退任。2023年4月に株式会社ロケットスターを設立し、代表取締役社長 CEOに就任。50歳で3度目の起業となる。
新卒で堀場製作所に入社後、デジタルマーケティング業界へ転じ、スタートアップや博報堂DYグループなど4社を経験した和泉氏。
博報堂DYグループでは営業責任者として、経営統合後の組織統合と営業戦略の再構築に取り組み、マーケットにおける企業の最前線を経験してきました。
その後、「ご縁」でサーチファンドという新たな挑戦を選び、ロケットスターとともに学びと実践を重ねながら、事業承継の未来に挑む和泉氏に、これまでの歩みと事業承継への想いを伺いました。
■メーカー営業からスタートアップ、そして博報堂グループへ。4社を通じて学んだ、営業責任者としてのマネジメントの本質
荻原:まずは自己紹介をお願いします。
和泉:私はこれまで、メーカー営業を原点に、デジタルマーケティング業界でキャリアを積んでまいりました。
新卒で株式会社堀場製作所に入社し、メーカー営業を5年間経験。その後、トランスコスモス株式会社、スタートアップ企業を経て38歳で株式会社Hakuhodo DY ONE(旧アイレップ)に入社しました。
同社では執行役員・営業本部長として、2度の経営統合を経験。組織統合と営業戦略の再構築に取り組み、直販営業の推進を担ってきました。
荻原:2度の経営統合を経験されて、組織マネジメントについてどのような学びがありましたか?
統合後の組織マネジメントは非常に学びが多かったです。特に責任者としての最大の課題は、「結果へのプレッシャー」と「社員の心理的な不安」にどう向き合うかでした。
買収される側(統合対象側)の社員は不安を感じ、退職者も出るため、組織をつなぎ止める対応が不可欠です。しかし、どれだけ社員の心理的負担を考慮しても、責任者は最終的に数字という結果でしか証明できません。経営統合後の組織マネジメントは、そのシビアな現実に直面するもので、簡単な道のりではありませんでした。
■年齢よりも「ご縁」で決めたサーチャーとしての道。“関わるすべての人を幸せにする”経営哲学
荻原:次の経歴として、転職や起業ではなく、サーチャーという道を選んだのはなぜなのでしょうか。
和泉:デジタルマーケティング業界で約20年、企業の成長に関わってきました。その中で、次のステップとして、これまでの経験を活かしながら社会に還元できるようなことをしたいと考えていました。
そうした中で、起業という選択肢を意識していました。転職は考えておらず、自分でやるか、今の環境に残るか、その二択でした。
そんなとき、荻原さんとのご縁でサーチファンドという仕組みを知り、ロケットスターの理念に共感しました。私は起業経験がなかったので、ファンドとしての支援体制にも強く惹かれました。
荻原:今の年齢で挑戦することについては、どう受け止めていますか?面接をしていると「もうすぐ50歳になるから遅いのでは」と悩む人が多いのですが。
和泉:私は、年齢が挑戦の壁になるとは考えていません。
これまでのキャリアで培った経験があったからこそ、最終的に導かれました。そして、その上でサーチファンドという得難いご縁をいただいたことが、決断の最大の理由です。
経営やファンドの仕組みなど、学ぶことは多いですが、ロケットスターの強力な支援の下、大きな使命感を持って事業に取り組めるこの環境を選んで良かったと思っています。
荻原:では、サーチャーとして、将来社長になることをどう捉えていますか?自分なりの経営哲学があれば教えてください。
和泉:私は社長経験こそありませんが、マネジメント経験は多く積んできました。前職でもメンバーによく話していたのですが、自分の仕事で大切にしている価値観として「関わるすべての人を幸せにする」というものがあります。とてもシンプルですが、自分にとって大切な信念です。
社員だけでなく、お客さま、今後は株主も関わってきます。また、サーチファンドが地域に根差した企業を承継するという特性から、地域や社会も重要なステークホルダーに含まれます。
こうしたすべてのステークホルダーを幸せにすることを目指してベストを尽くすこと。成果を出し、その成果を分かち合うことが良い循環につながると思っています。
必ずしも社長経験がなくても結果を出せるということを示して、ロールモデルになれたら光栄だなと思います。
■M&AやPMIの実践知識を学び、ロケットスターとの伴走で再発見した“自分の強み”
荻原:M&AにはPMI、MBO、バリュエーション、銀行との付き合いなど幅広い知識が必要ですが、M&A知識との向き合い方についても教えてください。
和泉:正直、最初はわからないことだらけでした。前職でファイナンスなどM&Aの知識について学ぶ研修の機会はありましたが、事業買収・売却の実務経験がなかったため、サーチャーになった当初は未知の世界で、感覚もつかめなかったです。
でも、週次の定例会などでロケットスターの皆さんと一緒に進める中で、担当者のみなさまのサポートが本当に手厚くて、おかげさまで理解が進んでいきました。
わからないことを聞くと、例えば営業的な感覚から「こういうものだよ」と置き換えて説明してくださる方もいますし、数字面で「投資判断としてはこのラインですね」とシビアに教えてくださる方もいます。
いくつか案件を検討する中でも「この財務状況だとリスクがある」など、自分では気づけない視点を教えてもらいました。そうした支えが本当に大きいです。
こういった教育システムがあればサーチャーの数も増えると思います。
荻原:ダイレクトソーシングやオリジネーションプラン作成で大変だったことや工夫したことは何でしょうか。
和泉:まずオリジネーションプランの作成では、プランに落とし込む中で、自分自身の強みを再確認できました。これまでのキャリアを振り返り、最も価値を発揮できる領域を見直した結果、「デジタルマーケティングをコアに再成長できる事業領域」だとスコープを明確に定めることができ、相互補完的な関係構築についても整理できた点で、非常に有意義でした。
一方でダイレクトソーシングは、本格始動から3ヶ月が経過し、焦りや厳しさも感じています。ソーシングが長期化すれば、資金面のプレッシャーも増します。
その中で工夫しているのは、「将来的な事業成長につながる連携機会」をソーシング活動と並行して探ることです。
たとえば、「事業承継を検討したい企業」と思える社長を紹介していただいた際、「今後の事業成長の延長線上にM&Aはありますか?」と問いかけます。最初は「今はない」と答えられても、話を進める中で「それなら一緒にやりたい」と事業連携に発展し、実際に収益につながり始めているケースもあります。
このサーチ活動と収益獲得の両立が、資金面の不安を軽減し、プレッシャーを和らげています。
また、この3ヶ月を振り返ると、過去のつながりから新たな「ご縁」も生まれました。周りの方々に支えられていることに深く感謝しており、「和泉さんならこういう会社がいい」「売却は未定だが紹介する」と声をかけてくださる方も多く、周りの方々の支援が何よりのモチベーションになっています。
荻原:和泉さんの場合は、サーチャーとしてビジネスパートナーがいらっしゃいますよね。
和泉:はい。彼はもともと起業を考えていたのですが、パートナーになってもらえるよう依頼しました。最初は「サーチファンド」という仕組みに馴染みがなく、一度断られました。その後、改めて「一緒にやろう」と話し、最終的に「一緒にやる方が成功確率が高い」と思ってもらえて、参加してくれました。
1人ではなく、バディとして一緒に動けるというのは大きな支えになっています。
荻原:なぜ自分なら事業継承をして任せてもらえると考えますか?
和泉:私の強みは、15年超のマネジメント実績と人材育成能力です。これは、多くの組織を率いてメンバーを成長させてきた確かな経験に基づいています。また、デジタルマーケティングで磨いた専門知識に加え、長年の活動で築いた業界ネットワークも大きな武器です。
この「組織を牽引する力」と「知識・ネットワーク」を活かし、事業を継承し、次の成長ステージへ導く上で貢献できると考えています。
荻原:承継後はどのような経営をしていきたいですか?
和泉:これまでの経験を活かし、承継する企業の持つ資産や人材を最大限に生かしながら、新しい価値を生み出していく経営をしたいと考えています。
また、事業を託してくださるオーナー様に対しては、まず「私がどういう人間か」を知っていただくことが重要です。様々なお話を通じて、「この人になら託せる」と思っていただけるよう、誠実に向き合ってまいります。