ホームサーチャーたちの物語

承継後のリアルvol1,~飯島隼人氏が語る、メディア変革と二社承継のリアル

2026/6/14

承継後のリアルvol1,~飯島隼人氏が語る、メディア変革と二社承継のリアル

【スピーカー】 飯島隼人(いいじま・はやと)

株式会社アングルクリエイト代表取締役社長。2025年1月に株式会社アングルクリエイト(旧株式会社ビジネスジャーナル)代表に就任後、2026年3月に株式会社ADS(YouTube動画事業)を追加承継。メディア事業の変革と動画領域への展開を推進中。


【インタビュアー】 荻原猛(おぎわら・たけし)

株式会社ロケットスター代表取締役社長CEO。ソウルドアウト株式会社を設立し東証一部上場、博報堂DYホールディングスへのTOBを経て、2023年4月にロケットスターを設立。



ロケットスターが最初に手がけた事業承継から一年以上が経過した。Google広告依存のメディアモデルから企画提案型の直販営業へと転換を果たし、承継前比で現在では売上は5倍以上に成長している。※ 1

2025年3月にはYouTube動画制作会社ADSを追加承継し、メディア×動画のシナジー創出へと動き出した。ロケットスター第一号サーチャーとして二社の承継を経験した飯島隼人氏に、PMIのリアルと、ロケットスターとの伴走について率直に語ってもらった。



Q1. 承継から数カ月が経ちました。今の率直な心境を教えてください。

荻原:承継から数カ月が経ちました。ビジネスジャーナルとADS、それぞれの今の率直な心境を教えてください。


飯島:ビジネスジャーナルというメディア事業を承継したのが2025年1月ですから、もう一年以上が経ちます。最初はロケットスターにとっても私にとっても初めての承継でした。承継後は、事前に立てたビジネスモデルの転換計画をきちんと遂行することにフォーカスしてやってきた、というのが正直なところです。


途中、AIの普及でビジネスジャーナルのPVが想定より落ちる局面もありましたが、それを逆手に取って動画化やイベント開催などのクロス展開に踏み切りました。一見ネガティブな変化でも、それをきっかけにポジティブな転換につなげていく。今振り返ると、外圧を利用して会社を変革できた局面でもあったと思っています。


ADSは2025年3月に承継したので、まだ二カ月ほどです。ビジネスジャーナル(現・アングルクリエイト)でのPMIの経験——百日プランの立て方や承継後の動かし方——を参考にしながら進めています。ただ、メンバーの年齢層やキャリアがアングルクリエイトとはかなり異なるので、同じアプローチをそのまま持ち込まず、フィットさせていくことを楽しみながらやっています。


Q2. 事前のDDと、実際の経営のギャップはどの程度ありましたか。

荻原:事前のデューデリジェンスと、実際に経営に入ってからのギャップはどの程度ありましたか。


飯島:大きなギャップはありませんでした。DDで挙がっていた懸念事項は実際に課題として現れましたが、想定していた最悪と最良のレンジの中でやれています。


ADSについては、主要クライアントとの取引量がDDのキーポイントでした。承継後に丁寧に向き合ったことでリスクを再評価できています。メディアや動画制作の現場は、一般的な営業組織とは働き方や価値観がかなり異なります。DDの段階から現場メンバーに実際に会い、一緒に仕事する機会を意識的に作っていたことが、PMIを円滑にした要因の一つです。


ギャップが小さかった最大の理由は、自分自身がこの業界に深く携わってきたことです。業界構造と商習慣の解像度が高い状態で臨めたので、承継先のメンバーより先に「ここが課題になる」という部分を捉えられていた。私としては、経営していく部分のチャレンジにだけリスクを絞って向き合えた感覚があります。


Q3. 前職の経験が活きた場面と、そうでなかった場面を教えてください。

荻原:PMIの局面で、前職の経験が活きた場面と、そうでなかった場面を教えてください。


飯島:業界構造と商習慣の深い理解は、PMI全体を通じて活きました。メディアとPR、デジタルマーケティングの領域に長く携わってきたことで、課題の先読みができた。経営の難しさにだけ向き合えばよかった、という感覚です。


一方で、前職は大企業だったので、中小企業との規模のギャップには慣れが必要でした。インフラの整い方、社員の認識、「言わなくてもわかるだろう」と思っていたことを一から丁寧に説明する必要がある。業界知識よりも、規模の違いによるカルチャーのギャップの方が、実務的には想定より大きかったかもしれません。


Q4. 社員との関係はどう構築してきましたか。

荻原:社員との関係はどう構築してきましたか。最初の接し方で意識したことはありますか。


飯島:二社で年齢層がまったく異なります。アングルクリエイトでは承継したメンバーが五十代で、私が三十五歳。ADSでは皆さん私より年下で、二十五から三十歳が中心です。同じやり方では通用しないと最初から割り切っていました。


共通してやってきたのは、既存業務の運営だけでなく、新しい挑戦のテーマを必ず持ち込んで、私自身も一緒に向き合うというスタンスです。「成長と挑戦と前向き」をミッション・ビジョン・バリューに組み込み、挑戦することを疑わない文化を作っています。


理由はシンプルで、既存クライアントの対応だけであれば、私が経営者として入る必要性が薄い。でも新しい取り組みをする時は、社長の描くイメージをメンバー全員が理解して動く必要がある。そこに私が入る意味が生まれます。社長の役割を既存業務の管理ではなく、新しい挑戦の設計と体現に置くことで、自分が会社にいる理由が日々の仕事として見えてくるのです。


新しいことに取り組む時、社長の私自身がそのお題に対して一番熱量を持っている状態にする。それが社員から見た「このリーダーについていこう」という判断につながっていると感じています。文化作りも社長の大事な仕事です。


Q5. 前オーナーとはどのような関係ですか。

荻原:前オーナーとは現在どのような関係ですか。引き継ぎは円滑に進みましたか。


飯島:両社とも良好な関係が続いています。


前オーナーとは日々のやり取りはほぼありませんが、私たちが事業の形を変えながら会社を育てていることをとても喜んでくださっています。「このままでは難しかったかもしれないが、形を変えることでこんなに価値があったんだ」と我々の改革を前向きに捉えていただいている。それが励みになっています。


ADSの前オーナーは今も業務委託という形で携わっていただいています。前オーナーが築いてきたクライアントリレーションや社内キーマンとの関係は、承継後も経営の核になっています。マネジメントで悩んだ時に相談に乗っていただけることは、承継という形ならではの強みです。


ただ正直に言うと、オーナーが変わった瞬間に、オーナーの熱量が同じではないことは理解し、受け入れる必要があります。気持ちを同じにしようとするのではなく、やるべきことをきちんとやってもらうことにスコープを当てる。それが現実的な向き合い方だと思っています。


ロケットスターとの連携——GPの関与とは何か

荻原:ロケットスターとは、承継後どのような形で関わっていますか。


飯島:取締役に入っているのは私以外は全員ロケットスターのメンバーです。でもファンドが取締役として名前を連ねるだけという形とはまったく異なります。


特に大きいのは、漠然とした不安や心配事をすぐに共有できる環境です。一人で抱えると大きく見えることも、荻原さんや山家さんに話すと「それはこういうことではないですか」とフラットに返してもらえる。見えないから怖い、という状態を解消してもらえることが経営の安定につながっています。そういう意味でも山家さんとは週複数回のミーティングを継続してガッツリ関わって貰えていることも安心に繋がっています。


承継初期に最も助かったのは、百日プランを一緒に作ってもらえたことです。初めての承継だったので、何を優先すべきかの判断自体が難しかった。「百日プランを作ろう」というキックがロケットスターからあったことで、優先すべき事項を共同で設定できました。一人で決めたものではないからこそ疑わずに走れる。承継後一年以上が経った今も、あの百日プランがぶれない軸になっています。


事業面でも直接的な支援があります。新規クライアントの紹介、イベント登壇者の紹介、LPである早川さん(ユナイテッド株式会社代表取締役社長)にもイベントに参画いただくなど、ロケットスターのエコシステム全体が事業に貢献してくれています。メディアとしてコンテンツの質を引き上げる上で、自分一人では到達できない場所に連れて行ってもらっている感覚があります。


RSG(リアル セッション ギルド)も重要な場です。違う領域・違う立場のサーチャーが全員集まって、今の経営課題を持ち寄って話す。ココで悩みを話すと皆さん立場が近いので理解してくれますし、ブレイクスルーのヒントを得られるので経営の判断が整理されます。また先日のAI活用の勉強会をきっかけに経営管理への実装が進むなど、情報がそのまま経営に直結してきます。


業績と展望——変革の先に何を作るか

荻原:承継後の業績と、これから動かす施策を教えてください。


荻原:アングルクリエイトの売上は承継前比で約500%成長しています。Google広告という受け身の収益から、企画提案型の直販営業へとビジネスモデルを転換した結果です。承継した瞬間から仕事がある状態を作っておいたこと。つまりサーチ期間中からの営業パイプラインを構築しておいたことが、最初の数字に直結しました。


ADSの承継によって、動画制作を内製しながらクライアントにも提供できる体制が整ってきています。メディアと動画が組み合わさることで、情報を届ける手段が広がる。そのシナジーは大きい。それをこれから本格的に展開していきます。


日本はあらゆる資源が限られています。労働人口も、市場のパイも、事業機会も。その中で会社を非連続に成長させていく上で、複数の承継を積み上げていくことは数少ない有効な手段だと思っています。一社の承継をゴールにせず、構想を実現するための手段として積み上げていく。この発想が、サーチャーとして経営していく上での本質的な価値だと考えています。


Q7. サーチ期間中にやっておけばよかったことはありますか。

荻原:今振り返って、サーチ期間中にもっとやっておけばよかったと思うことはありますか。


飯島:承継前の営業パイプライン構築です。サーチ期間中に展示会への出展、オウンドメディアの営業活動、アライアンスの準備を動かしていたことで、承継した瞬間から仕事がある状態でスタートできました。


多くの方がサーチ期間中はターゲット企業の調査やビジネスモデルの検討に集中されると思います。でも、よーいドンのラインをできるだけ前に持っていくことが、最初から全速力で走るための準備になります。半年遅れればその分後ろにずれます。


もう一点は、過去のつながりを使い倒すことです。私も最初は「ゼロから始めなければ」という思い込みがありましたが、積み上げてきたものを活用する方が賢い、と途中から頭を切り替えました。そのため前職からの発注もKPIに組み込むほど大切にしていますし、自分を応援してくれる人が多ければ多いほど、それが売上にもつながっていきます。サーチ期間は、事業を探す時間であると同時に、人脈を耕す時間でもあります。


Q8. これからサーチャーを検討している方に、一言お願いします。

荻原:これからサーチャーを検討している方に、一言お願いします。


飯島:サーチャーという立場が持つ可能性を、正しく理解してほしいと思います。


前職でのキャリアアップや独立起業と比べても、今の自分に最もレバレッジが効いているのはこの仕事だと実感しています。既存のビジネスとそのチームを引き継ぎ、経営者として成果を出す。この座組みは、サーチャーでしか経験できないものです。


一つ伝えておきたいのは、「ゼロから始めなければならない」という思い込みを手放してほしいということです。積み上げてきたキャリア、業界知識、人脈——それらをそのまま持ち込める。自分を応援してくれる人が多いほど、それが事業の力になります。


また、一社の承継をゴールにしないでほしいとも思います。自分の構想から逆算して、どの会社をどの順番で積み上げていくかをサーチの段階から考えておくことが、経営の幅を大きく広げます。


※1 事業承継前年の売上と買収年2025年期の比較



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