ホームサーチャーたちの物語

承継後のリアルvol,4~岩本眞二氏が語る、プロ経営者の流儀とバリューアップの実践

2026/6/14

承継後のリアルvol,4~岩本眞二氏が語る、プロ経営者の流儀とバリューアップの実践

【スピーカー】 岩本眞二(いわもと・しんじ)

株式会社UDG代表取締役。ニチメン(現・双日)入社後、社内ベンチャーとしてEC事業を立ち上げ大阪証券取引所JASDAQ市場(現・東京証券取引所グロース市場)への上場を果たす。その後、6社で代表取締役を歴任し全社黒字化を実現したプロ経営者。2024年12月にロケットスターのサーチャーとしてUDGを承継。

 

【インタビュアー】 荻原猛(おぎわら・たけし)

株式会社ロケットスター代表取締役社長CEO。ソウルドアウト株式会社を設立し東証一部上場、博報堂DYホールディングスへのTOBを経て、2023年4月にロケットスターを設立。

 


岩本氏は実に7社目の社長就任。承継したUDG社の経営に入って半年が経った。

これまで6社すべてで黒字化を果たしてきた岩本眞二氏が、今回初めて経験したのは「黒字の会社をさらに伸ばす」という挑戦だった。

LBOによる資金調達、銀行との折衝、組織の再構築——プロ経営者が語るPMIのリアルと、これから動き出す仕込みの全貌を聞いた。


Q1. 承継から半年が経ちました。今の率直な心境を教えてください。

荻原:承継から半年が経ちました。今の岩本さんの率直な心境を教えてください。

 

岩本:これまでは赤字の会社を黒字にする、いわば病人の病気を治す仕事をしてきました。カルテを見れば悪いところがわかり、それを直せばいい。ところが今回は、黒字で営業利益率も高く、効率経営を徹底してきた会社です。削るところがほぼない。悪いところを直すのではなく、いいところばかりの会社を伸ばすという難しさを、7社目にして初めて経験しています。

 

また、UDG社の企業文化にも最初は面食らいました。全社員がチャットでテキストコミュニケーションをする文化で、ミーティングがゼロの状態でした。私の得意なコミュニケーションのスタイルが効きにくいぞ、と。

 

加えて、前社長が経理・総務・人事を一手に担っており、承継直後はその全ての業務が私のところに来ました。最初の2〜3カ月は、営業以外の雑務も含めてすべて対応するという状態が続きました。ただそれによって、会社の実態を隅々まで把握する機会になったというメリットもありました。

 

最近はロケットスターのアドミチームがだいぶ担ってくれるようになり、今はようやく攻めに出られる体制が整ってきた感覚があります。

 

Q2. 事前のDDと、実際の経営のギャップはどの程度ありましたか。

荻原:事前のデューデリジェンスと、実際に経営に入ってからのギャップはどの程度ありましたか。

 

岩本:業務内容は概ね想定通りでした。一点だけ予想より大きなギャップがあったとすれば、一人のキーパーソンへの依存度の高さです。

 

全売上にまつわるディレクションを一人に集中させてきた会社で、その方を立てて他は実行部隊として動くという組織体制でした。DDの段階では数字上の懸念は把握できていましたが、この構造の深さまでは見えませんでした。

 

ただ、この半年でそのキーマンとの対話を重ね、仕事のプライオリティをつけることの重要性を理解してもらえるようになってきました。タスクにABCDのランク付けをして、CとDは他に任せてAとBに集中しようという話をしたところ、納得してくれて徐々にシフトが始まっています。自分の業務を他に移譲することで一段上の仕事ができるようになるという考え方を、今ようやく腹落ちしてくれている状態です。これによってリスクの分散にもつながっています。

 

LBOで入ったことで銀行のコベナンツも生じましたが、ロケットスターの八田さんのサポートもあり協議しながら丁寧に対応できました。会計方針を受注ベースから出荷ベースに変えた際のインパクトは銀行も驚いていましたが、実態ベースでの業績は着実に伸びており、次の四半期決算では二桁成長を実現できる見込みです。

 

Q3. 前職の経験が活きた場面と、そうでなかった場面を教えてください。

荻原:PMIの局面で、前職の経験が活きた場面と、そうでなかった場面を教えてください。

 

これまでどの会社でも共通して「その場の会議で状況を把握してすぐ指示を出す」というスタイルでやってきました。それがPMIを加速させる私の経験の核心です。

 

今回はその入り口がなかった。ミーティングがない会社ですから、指示を出す機会を自分で作るところから始めなければなりませんでした。6社の経験があっても、どこから入り込むかの判断に一番時間がかかったのは、この会社だったかもしれません。

 

一方で経験が活きた部分もあります。どの会社でも共通して「何が問題か」はすぐに見えます。業種が変わっても、経営の構造を読む目は積み上がっていくものです。組織図がない、育成システムがない、キーパーソン依存が高い、この3点は入った瞬間に見えました。

 

Q4. 社員との関係はどう構築してきましたか。

荻原:社員との関係はどう構築してきましたか。最初の接し方で意識したことはありますか。

 

岩本:最初にやったのは組織図を作ることです。

 

この会社には組織図がありませんでした。従業員は与えられた業務をこなすことを重視する文化で運営されてきた会社だったので、組織図を作り、何人かを昇格させました。経営としては当たり前のことを当たり前にやっただけですが、その効果は大きかった。タイトルがついたメンバーは目の色が変わりました。自分がリーダーだという意識が生まれたのです。

 

その後、手狭だったオフィスを移転させて拡大しました。この会社は本当に大きくなっていくのだという体験をしてもらうことで、社員のロイヤリティが上がっていきました。

 

コミュニケーションはとにかくナンバーツーとの毎日の対話を継続しました。その結果、今では私とナンバーツーが仲良くやっているという雰囲気が社内に伝わっていて、組織全体が安定しています。モチベーションの上げ方を当たり前にやっただけですが、これが業績にも直結していると感じています。

 

Q5. 前オーナーとはどのような関係ですか。

荻原:前オーナーとは現在どのような関係ですか。引き継ぎは円滑に進みましたか。

 

岩本:非常に良好です。今も定期的に食事をしながら話す関係が続いています。

 

前社長の遠藤さんは「自分がやっていたら会社は大きくならない」という判断で売却を決断された方です。その言葉をナンバーツーに伝えると、じわじわと刺さっていきました。今のやり方を続けていても限界がある、一段上の仕事に移っていかないと会社は伸びないということを、前社長自身の言葉としてナンバーツーに伝えられるのは、承継という形ならではの強みだと思います。

 

前社長に再出資していただいているのも大きいです。会社を見捨てられないという気持ちがあるから、何かあれば相談に来てくれますし、こちらからも連絡できます。出資を残すことの意味を、今回改めて実感しました。

 

Q6. ロケットスターとは、承継後どのような形で関わっていますか。

荻原:ロケットスターとは、承継後も継続的に関わっていますか。具体的にどんな形で。

 

岩本:まずは山家さんと週2回のミーティングを毎週続けています。山家さんが現状を深く把握してくれているので、何かあればすぐに共有できるし、理解してもらえる。「PEファンドとはちょっと違うな」と感じています。これは経験した自分だから比較できるし、違いがわかる。

 

どちらかというと昔のベンチャーキャピタルでハンズオン型と謳っていた人たちに近い感覚です。それよりさらに深く入ってきてくれている印象があります。

 

LBOによる銀行との折衝は、八田さんのサポートがあって円滑に進みました。会計方針変更のインパクトを銀行に丁寧に説明し、実態ベースでの業績の伸びを理解してもらうプロセスを一人で実施するとなったら、正直かなり大変だったと思います。

 

RSG(リアル セッション ギルド)の派生でロケットスターが勉強会を開催してくれたので、AI活用の話が会社に入ってきました。荻原さんからAIの話を聞き、飯島さんのつながりでAI専門家を紹介していただきました。今まさに社内へのAI実装が動き出しています。こういった情報やネットワークが経営に直結してくるのは、ロケットスターとの伴走ならではだと思っています。

 

業績と仕込み:半年で何を変え、これから何を動かすか

荻原:承継後の業績と、これから動かす施策について教えてください。

 

岩本:売上は前年比10%弱増、利益は15〜20%増で推移しています。会計方針の変更があったため決算書として単純比較はできませんが、実態ベースでは過去最高水準です。次の四半期決算では、この流れをさらに加速させ二桁成長を実現できる見込みです。

 

この半年でやってきたことはシンプルです。組織図を作り、昇格をさせ、ナンバーツーとの対話を毎日続け、数値管理を月次できちんと行えるようにしました。粗利率が月によって20ポイントも変動していた状態を整理して、今では毎月きちんと把握できています。当たり前のことを当たり前にした結果がこの数字に出ています。

 

これからが本番です。半年間かけて仕込んだことがいよいよ動き出します。

 

改革の一つはフロー型からストック型ビジネスモデルへの転換です。現状は受注ごとに売上が立つ構造です。ここに継続課金や定期契約の仕組みを組み込むことで売上の予測可能性を高め、企業価値の安定性を上げていきます。ストック型の収益比率が上がれば、バリュエーションへの影響も出てきます。

 

もう一つはEC化の推進です。BtoB中心だったビジネスにEC経由のBtoC販路を加えていきます。デジタルマーケティングの知見を活用して、これまで手つかずだったオンライン経由の売上を作りに行きます。

 

この2つが動き出せば、数字は次のステージに入ります。計画を上回る数字を必ず出します。

 

Q7. サーチ期間中にやっておけばよかったことはありますか。

荻原:今振り返って、サーチ期間中にもっとやっておけばよかったと思うことはありますか。

 

岩本:正直に言うと、私はサーチ期間中に優等生ではありませんでした。

 

UDGに絞り込んでからは、早く就任したくて仕方がなかった。山家さんから「就任前にできることがある」と言われても、心の中では「就任してからやればいい」と思っていました。就任前にやってずれていたら無駄になると感じていたのです(笑)。

 

ただ、その期間中に過去の人脈を丁寧に回り直したことは大きな財産になっています。当時は目的があってというよりも、ご挨拶のつもりでしたが、今になってそのつながりが動き出してきています。サーチ期間は、焦りの時間ではなく、人脈を耕す時間だったと今は思っています。

 

Q8. これからサーチャーを検討している方に、一言お願いします。

荻原:これからサーチャーを検討している方に、一言お願いします。

 

岩本:挑戦してほしい、の一言です。

 

私がベンチャーを立ち上げた頃は終身雇用の時代で、辞めたら大企業には戻れませんでした。失敗したらやり直しが利かないという空気があった時代です。今は全然違います。失敗しても命は取られない。やり直しが利く時代になっています。

 

人は死ぬ時に「挑戦しておけばよかった」と思うそうです。挑戦しすぎたと後悔する人は少ない。それだけのことだと思います。

 

サーチャーは通常の起業と違い、個人保証も担保も必要ありません。ファンドが資金を出してくれる。これほどリスクの低い挑戦の形はなかなかありません。それでもためらうとすれば、あとは覚悟だけです。

 

ただ、覚悟を決めた先に一人でいる必要はない。7社の経営経験がある私でも、山家さん、八田さん、荻原さんとのチームがあったからこそ乗り越えられた局面がいくつもありました。チームで戦う設計になっているから、安心して全力で攻められる。それがロケットスターのサーチャーという選択肢の本質だと思っています。

 

私自身、プロ経営者として「失敗したら次の声がかからない」という意識でずっとやってきました。その緊張感があったから勝ち続けられた。サーチャーとして今回の承継も、その緊張感は変わりません。半年間仕込んできたことがいよいよ動き出す。これからが本番です。

 

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