ホームサーチャーたちの物語

承継後のリアルvol2,~北方靖人氏が語る、アパレルにデータ経営を実装するということ

2026/6/14

承継後のリアルvol2,~北方靖人氏が語る、アパレルにデータ経営を実装するということ

【スピーカー】 北方靖人(きたがた・やすと)

株式会社キャセリーニ代表取締役社長。りそな銀行にて法人営業を経験後、株式会社WEGOに転職し副社長として年商数億円から約400億円規模へと成長を牽引。その後LESPORTSAC JAPAN代表取締役社長に就任し、EC比率の引き上げと伊藤忠への売却を実現。ロケットスターのサーチャーとして株式会社キャセリーニを承継し、自社ECの拡大とB2C販路の開拓を推進中。

 

【インタビュアー】 荻原猛(おぎわら・たけし)

株式会社ロケットスター代表取締役社長CEO。ソウルドアウト株式会社を設立し東証一部上場、博報堂DYホールディングスへのTOBを経て、2023年4月にロケットスターを設立。


銀行員からWEGO副社長、LESPORTSAC JAPAN代表として複数のブランド再生を手がけてきた北方靖人氏が、キャセリーニを承継してから半年以上が経過した。

ECの売上は順調に成長し、承継後の業績は昨対二桁成長を達成している。

データ起点の経営管理とAIツールの実装を同時並行で進める北方氏に、PMIのリアルと今後の展望を聞いた。


 

Q1. 承継から数カ月が経ちました。今の率直な心境を教えてください。

荻原:承継から数カ月が経ちました。今の北方さんの率直な心境を教えてください。

北方:ようやく少し呼吸ができるようになってきた、というのが正直なところです。最初は無酸素運動をしていたのが、最近やっと有酸素運動に変わったというか、ダッシュで走っていたのがランニングに変わったような感覚です。

最初の3カ月は、状況を把握したいという気持ちと、物事を前に進めたいという気持ちが常にぶつかり合っていました。止まっていられない感覚がずっとあって、自分の判断がこれで本当に正しいのかという悩みも抱えながら走っていました。それがようやく、まあまあこれでいいかな、と思えるようになってきました。

状況把握に3カ月かかる、とはよく言いますが、本当にその通りだと実感しています。

 

Q2. 事前のDDと、実際の経営のギャップはどの程度ありましたか。

荻原:事前のデューデリジェンスと、実際に経営に入ってからのギャップはどの程度ありましたか。

北方:想定の範囲内が6、想定の範囲外が4、というのが正直なところです。

数字面でやるべきことはほぼDDの時点で見えていました。ただ、まさかそこまでとは、という部分が4割ありました。具体的には、長年培われてきた業務慣行や成功体験が想像以上に深く根付いていたこと、そして前オーナーの存在が組織の求心力そのものになっていたことは、資料だけでは見えなかった部分です。裏を返せば、それだけ歴史と実績のある会社だということです。だからこそ、新しい体制で自走できる組織に変えていくには、丁寧な対話と時間が必要でした。

また、業務委託で週1〜2回しか来ない外部スタッフが相当数いて、実際に何をやっているかの把握に思ったより時間がかかりました。入ってみないと分からなかった部分ではありますが、DDの段階でそこまで踏み込んで確認できていれば、もう少し早く動けたかもしれません。

クリティカルなノックアウトパンチがあったわけではなく、ボディブローが積み重なる感覚です。大きな一撃より小さな積み上げへの対処の方がじわじわと体力を使う感じがします。

 

Q3. 前職の経験が活きた場面と、そうでなかった場面を教えてください。

荻原:PMIの局面で、前職の経験が活きた場面と、そうでなかった場面を教えてください。

北方:PL分析や数字から事業構造を読み解く力は、前職から一貫して使えました。WEGOもLESPORTSACも、財務数値から何を動かせばどう変わるかという基本的な考え方は、規模や業種が変わっても共通しています。

一方で気をつけたのは、「こうすればいい」という自分の経験を過信しないことです。中小企業の現場では、まずこの人の言うことを聞いていいのかという信頼感を得ることが先決です。それは経験や実績とは別の話です。ついつい「こうやればいい」と言いたくなる場面でも、まず現場の声を聞くことを優先しました。あなたが感じていることを教えてください、というスタンスで入ったことは、振り返って正解だったと思います。

 

Q4. 社員との関係はどう構築してきましたか。

荻原:社員との関係はどう構築してきましたか。最初の接し方で意識したことはありますか。

北方:最初に全社員と1on1を実施し、今また半年後の1on1を回し始めています。モチベーション管理というより、状況把握が主な目的です。

創業家から新しい経営体制へ移行したことを、社員がどう受け止めているかを丁寧にヒアリングしました。意外だったのは、以前の体制を支持しつつも、新しく変えてほしいと思っているメンバーが多かったことです。新体制への期待感は、PMIを進める上で大きな追い風になりました。

業務については、これをやるべきだという点は丁寧に説明すれば理解してもらえます。ただ、言うことを聞いてもらえるかどうかは、信頼関係の話です。こちらが指導しに行くというスタンスではなく、まず聴きに行くという姿勢を一貫して保つようにしました。

 

Q5. 前オーナーとはどのような関係ですか。

荻原:前オーナーとはどのような関係ですか。引き継ぎは円滑に進みましたか。

北方:円満な形で引き継ぐことができました。

山本前オーナーには承継後も残っていただき、主に卸部門を統括していただいていました。ただ、会社全体の成長を最優先に、経営資源を主力ブランドへ集中させる「選択と集中」を進める中で、一部のブランドについては休止する方針を決めました。そのブランドは山本さんご自身が立ち上げた、思い入れの深いブランドです。だからこそ話し合いを重ね、最終的には山本さんご自身が買い取り、その手で育て続けていくという、お互いにとって発展的な形に落ち着きました。ブランドが創業者の手で続いていくことは、私にとっても嬉しい着地でした。

M&Aにおいて前オーナーとの関係は、理屈だけでは動かない部分があります。その方が次のステップに向けてどう進むかをちゃんと一緒に考えることが、中小企業のM&Aでは特に大事だと実感しました。

 

Q6. ロケットスターとは、承継後どのような形で関わっていますか。

荻原:ロケットスターとは、承継後も継続的に関わっていますか。具体的にどんな形で。

北方:業績の共有はもちろんですが、それ以上に「こういう方向で考えているんですけど、どう思いますか」という確認ベースの相談が多いです。特に山家さんとはSlackも含めて細かくやり取りしていて、大事な意思決定の前には必ず壁打ちする形になっています。

印象に残っているのは、前オーナーのブランド休止をめぐる判断の場面です。正直、悩む気持ちが自分にはありました。ただ山家さんから「長い目で見ていいんじゃないか」とフラットに言われて、冷静になれました。自分がすっきりしたというより、一度立ち止まれた感じです。

RSG(リアル セッション ギルド)も自分にとってはとても重要な場です。違う領域・違う立場のサーチャーが、それぞれの課題を持ち寄って話す。情報交換という意味でも、前回のAI活用の勉強会をきっかけにMacに買い替えてAIをフル活用し始めたのも、RSGがなければなかった変化です。BIツールを使わなくなるほどAIを業務に組み込んでいます。

また、GP経由での人材紹介も事業に直接貢献しています。EC比率が上がってきている背景には、元ソウルドアウト執行役員がデジタルマーケティング担当としてジョインしていただきました。自分一人では到達できなかったところなので助かりました。

 

業績のリアル:KPIと経営ダッシュボード

荻原:承継後、特に意識して変えてきたKPIや経営管理の仕組みについて教えてください。

北方:キャセリーニをバリューアップする上で、自社ECを伸ばすことが最優先だと最初から明確にしていました。ECを伸ばすためのKPIはシンプルで、セッション数とコンバージョン率の2つだけです。

セッション数については、PRを活用したプロモーションが予想以上に効いて、事業計画を上回るペースで推移しています。さらにコラボレーション施策を組み合わせ、相手先SNSへの露出でセッションをさらに積み上げていく設計です。コンバージョン率については、カートまで来て離脱するユーザーの原因を一つひとつ潰しているフェーズです。

セールで売上を作ることはほぼやめました。セッションが上がれば売上は維持できるという信念があったからです。その上でzozo・楽天との在庫・商品連携も進め、チャネルの多様化を図っています。その施策もあってECの基盤が出来、業績も承継後に昨対で二桁成長でき、来期の本格的な拡大フェーズを見据えています。

また経営管理の面では、報告を受けるよりも自分で数字を見て仮説を立て、現場に確認するスタイルを取りたいと思っていたので、承継直後に経営ダッシュボードを自作しました。主要KPIを一目で把握できる状態を作ることで、感覚ではなくデータで経営判断できる土台を整えています。AIを活用しながらシステム開発も自分で進めており、経営管理の仕組みそのものをアップデートし続けています。

 

Q7. サーチ期間中にやっておけばよかったことは何ですか。

荻原:今振り返って、サーチ期間中にもっとやっておけばよかったと思うことはありますか。

北方:自分自身の経営スタイルを、もっと言語化しておけばよかったと思います。

どんな会社を探すかというソーシングの部分は考えていましたが、自分がどういうリーダーとして経営するのかという部分の整理が甘かった。独裁的にならないためにはどうするか、というような悩みも、事前にもっと自分の中で整理しておけば、入ってからの混乱が少なかったかもしれません。

サーチ期間は、会社を探す時間でもありますが、自分自身を棚卸しする時間でもあると思います。自分の強みはどこで、どう従業員に伝えていくかを言語化しておくことが、承継直後のスタートダッシュに直結します。

 

Q8. これからサーチャーを検討している方に、一言お願いします。

荻原:これからサーチャーを検討している方に、一言お願いします。

北方:完璧を探しすぎないことです。

完璧に準備して、完璧な会社でスタートしようとする気持ちは分かります。ただ、完璧すぎる会社は伸ばす余地がない。完璧じゃないからこそ、自分が何とかしてやるというテーマが生まれる。そのテーマに腹をくくれるかどうかが、全てだと思います。

自分がやりたいことと、伸ばす余地がある会社が合致した時に、初めて本当の意味で覚悟が決まります。条件だけで絞り込みすぎると、その出会いを見逃す可能性があります。数字や条件の前に、この会社を自分が変えられるかという直感を大切にしてほしいと思います。

自分の場合、キャセリーニはまさにそれでした。やりがいと、自分が信じていたことが合致している。だからこそ、今も前を向いて走れています。

 

一覧に戻る

CONTACT

お問い合わせ

お気軽にお問い合わせください。

問い合わせする